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1.実験結果と考察
(1)夏期、冬期における経時変化実験
各原油については、海水温度について、夏期、冬期の2ケース、また波浪条件について、強い波、弱い波の2ケース、1原油について、4ケースの経時変化実験を行った。表-1.1に全45油種の経時変化の状態を簡単に表わした。
流出した原油は、気象、海象の影響をうけて、状態が変化する。原油の時間経過に伴い物性変化の特徴をみると、経過時間と共に流出油は海水を取り込み、流出油中の水分が増加し、それに伴って密度、粘度が上昇してくる。また、原油中の軽質分が揮散し蒸発率が上がってくる。これらの物性の変化は油種によってさまざまであり、また気象、海象条件によってもそれぞれ異なった傾向を示す。
この流出油の状態は大きく分類すると、4タイプがある。その異なった4タイプの代表的の原油の時間経過に伴う物性変化を図-1.1に示す。
まず一つのタイプは、図のアラビアン・ヘビー原油にみられるように、海水を急激に取り込んで、粘度が徐々に上昇していき、海水と油のエマルジョン状態となり、この状態がさらに進行すると粘度が10,000cP以上となり光沢をもったムース状を示すようになる。ここで、油種により、このような高粘度のムース状となるものと高粘度にならずムース状とまでは至らないものなどいろいろな状態変化をする。ここでは便宜上、粘度が10,000cP以上になったものをムース化といい、10,000cPまで達しない状態をエマルジョン化という。高粘度のムース化まで至らない油として、図ではオマーン原油の性状変化を示した。
次のタイプは、時間経過に伴い水分、粘度等性状が上昇してくるが、ある時間経過すると油が海水表面上に存在しなく、海水中全体に分散してしまう状態になる原油がある。これをここでは分散化する原油といい、カタール・マリン原油がこの状態となる。この分散化のため、図に示すようにサンプリングが不可能となり測定ができなくなる。
ここでは、8時間以後分散化のためデータが取れていない。この分散化とムース化とは対照的な現象である。ムース化は原油の中に海水の微粒子が取り込まれて安定化するのに対し、分散化は波の攪拌作用で海水中に原油の微粒子が分散する現象であり、波の攪拌作用が止めば、微粒子状の原油は海水表面に浮上して、原油と海水の相に分離してしまう。即ち、この現象は油が波の運動エネルギーによって、微粒子化され水中に分散するためで、波のエネルギーが強い程油滴の微細化は進行し、浮力は小さくなり浮上に長時間を要するため水中に漂って、水中に分散した状態を生じることになる。密度が小さく粘度の低い原油はこの現象が起こりやすく、逆に密度が大きく粘度が高い原油ほどこの現象は起こりにくくなる。
最後の状態は、スマトラ・ライト原油などの高流動点原油にみられるように、時間が経過しても性状変化が小さく、流出と同時に油塊を形成して海水表面上を浮遊する状態となる。これは、原油の流動点が海水温度より高い場合に起こる現象であり、水分の取り込みが殆どなく、このため粘度等性状変化も非常に小さい。
次に、流出油の状態の代表的な原油について個別の各条件ごとの詳細な性状変化を示す。ここではムース化するものとしてカフジ原油、分散化するものとしてはカタール・マリーン原油、固形化するものとしてバック・ホー原油を選び、各々の性状変化を図-1.2、1.3、1.4に示す。また、各原油の夏期の強い波ケースでの状態変化写真を図-1.5に示す。
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I.ムース化する原油の性状変化(カフジ原油、図-1.2)
いずれの条件においても、急激に水分が上昇し24時間後には70%を超える。その後は一定の水分量
を維持するが、粘度は直線的に上昇して、夏の強い波ケースにおいては150,000cPを超える強固なムース油を形成する。密度も急激に上昇し、1.0000g/cm3程度で安定する。また蒸発率は30%弱となる。夏期、冬期における海水温度の違いはムース化の傾向に大きく影響しており、夏期の方が一般
的にムース化の傾向が強くなる。これは温度上昇によって原油の粘度が低下し、波の攪拌作用を受けやすくなるためである。また波の強さが増すほど波の攪拌効果
により水の取り込みが容易になり、ムース化は進行する。
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II.分散化する原油の性状変化(カタール・マリン原油、図-1.3)
条件の厳しい強い波条件下では、急激に水分が上昇し、エマルジョンを形成するが、そのエマルジョンは不安定である。その後数時間から1日程度でエマルジョンは分解し海水中に分散する。しかし弱い波の条件下では、水分の取り込みは弱く夏期には10%以下であり、粘度も徐々に上昇し不安定なエマルジョンを形成する。粘度の上昇は僅かで500cP以下である。また蒸発率は軽質分が多いため約40%近くに達する。このように厳しい条件において水中分散した軽質原油も、温和な条件下では水中分散が起こり難くなる。これは、温度等による粘度や波の強さによる気泡の取り込みなどにより分散化が左右されるためである。
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III.固形化する原油の性状変化(バック・ホー原油、図-1.4)
いずれの条件下においても、水分の取り込みも殆どなく、10%以下であり、粘度の上昇度合いも少ない。条件の影響を受けず、性状変化も殆どなく固まった状態で回流するのみである。強い波のケースでは流出油は丸くボール状になって浮遊する。(図-1.5状態写真参照)
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以上、各タイプの代表的な原油を取り上げ、各状態の性状変化について説明したが、原油の違いにより、流出油の性状変化は油種ごと異なった傾向を示すことがわかった。また同一原油においても流出条件の違いによっても異なった経時変化を示すことが確かめられた。
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